会社の会計帳簿・書類の保存義務と保管方法
はじめに
会社を経営するうえで「会計帳簿や書類の保存義務」は避けて通れない重要なテーマです。帳簿や書類の適切な保存は、税務調査や法的トラブルの際の証拠となるだけでなく、企業の信頼性や経営の透明性を高めるうえでも不可欠です。この記事では、会社設立後に必ず知っておきたい帳簿・書類の保存期間や保存方法について、最新の法令や公的機関の情報に基づき、わかりやすく解説します。
会計帳簿・書類の保存義務とは
会社には、日々の取引を記録した帳簿や、取引に関する各種書類を一定期間保存する法的義務があります。主な根拠法令は「会社法」と「法人税法」です。
- 会社法:会計帳簿や重要な資料は10年間の保存が義務付けられています(会社法第432条第2項)。
- 法人税法:帳簿や取引書類は原則7年間の保存が義務付けられています(法人税法第126条等)。
このように、2つの法律で保存期間が異なりますが、会社法の10年保存に従えば、法人税法の要件も満たすため、実務上は「10年間保存」が推奨されます。
保存が必要な帳簿・書類の種類
保存対象となる主な帳簿・書類は以下の通りです。
- 帳簿類
- 総勘定元帳
- 仕訳帳
- 現金出納帳
- 売掛金元帳
- 買掛金元帳
- 固定資産台帳
- 売上帳、仕入帳など
- 書類類
- 棚卸表
- 貸借対照表
- 損益計算書
- 注文書、契約書
- 領収書、請求書、見積書、納品書など
- その他
- 株主総会議事録、取締役会議事録
- 事業報告、附属明細書など
保存期間の詳細
書類・帳簿の種類 | 保存期間 | 根拠法令 |
---|---|---|
会計帳簿・重要資料 | 10年間 | 会社法 |
法人税関係帳簿・書類 | 7年間(※) | 法人税法 |
電子取引データ | 7年間(※) | 電子帳簿保存法 |
※青色申告書を提出した事業年度で欠損金額が生じた場合や、災害損失金額が生じた場合は10年間保存が必要です。
書類・帳簿の保存方法
保存方法は大きく分けて「紙保存」と「電子保存」の2つです。
紙での保存
- 書類ごとにファイルやバインダーで整理
- 火災・水害対策として耐火金庫や防水ボックスの活用
- 年度ごと・書類の種類ごとにラベルを付けて保管
- 保管場所は社内の専用書庫や外部の書類保管サービスも利用可能
電子データでの保存
- 電子帳簿保存法に基づき、要件を満たせば電子データでの保存が認められます。
- 電子取引(メールやクラウドで受領した請求書等)は、2024年1月以降、電子データでの保存が完全義務化されています。
- 保存要件:
- データの真実性(タイムスタンプ付与・訂正削除履歴の記録など)
- 可視性(検索機能・画面表示・プリントアウト可能など)
- システムの定期的なバックアップ
電子保存の注意点
- 電子保存は、国税庁の「電子帳簿保存法Q&A」や電子帳簿保存法特設サイトを参照し、要件を満たしているか確認しましょう。
- システム導入時は、電子帳簿保存法対応の会計ソフトやクラウドサービスの利用が安心です。
書類保存の実務上のポイント
- 保存期間を過ぎた書類は、個人情報や機密情報の漏洩防止のため、シュレッダーや専門業者による溶解処理などで適切に廃棄しましょう。
- 保存期間の起算日は「事業年度の確定申告書の提出期限の翌日」からカウントします。
- 保存義務を怠ると、税務調査時に経費の否認やペナルティの対象となる場合があります。
事例紹介
2025年3月決算の株式会社A社は、2025年5月末に確定申告書を提出しました。この場合、帳簿や書類の保存期間は「2025年6月1日」から10年間、すなわち2035年5月末まで保存する必要があります。
また、A社は2024年以降、請求書のやりとりをクラウドサービスで行うようになりました。電子取引データは、電子帳簿保存法の要件を満たすクラウドサービスで管理し、検索性や改ざん防止措置を講じて保存しています。
まとめ
会社の会計帳簿や書類の保存は、会社法では10年、法人税法では原則7年と定められていますが、実務上は10年間の保存が推奨されます。保存方法は紙・電子のいずれも選択可能ですが、電子保存の場合は「電子帳簿保存法」の要件を必ず確認しましょう。適切な保存は、税務調査やトラブル時のリスク回避だけでなく、会社の信頼性向上にもつながります。定期的な見直しと、法改正への対応を忘れずに行いましょう。