経営セーフティ共済の解約タイミングで損をしないためのポイントを行政書士が解説
はじめに
経営セーフティ共済(中小企業倒産防止共済)は、取引先倒産に備えつつ、掛金を全額損金・必要経費にできる制度として、多くの中小企業・個人事業主が活用しています。
一方で、解約のタイミングや理由を誤ると「元本割れ」や「思わぬ課税」によって、せっかくのメリットが相殺されてしまうことがあるため、出口戦略を意識しておくことが重要です。
経営セーフティ共済の解約の基本
経営セーフティ共済では、契約者の都合による「任意解約」のほか、法人の解散・破産、個人事業主の死亡、事業譲渡や法人成り等に伴う解約など、いくつかの解約理由が用意されています。
解約時には「解約手当金(いわゆる解約返戻金)」が支給され、その額は掛金総額に「掛金納付月数に応じた支給率(返戻率)」を乗じて計算されます。
掛金納付月数と返戻率の関係
中小企業基盤整備機構の公表情報によると、自己都合による任意解約であっても、掛金を12か月以上納めていれば掛金総額の8割以上が戻り、40か月以上納めていれば掛金の全額が戻る仕組みです。
一方で、掛金納付月数が1〜11か月の段階で解約すると返戻率は0%となり、掛け捨てになるため、短期での解約は原則として避けるべきタイミングといえます。
解約理由による返戻率の違い
返戻率は、掛金納付月数だけでなく「解約理由」によっても変動し、任意解約よりも法人解散や個人事業主の死亡などの解約の方が支給率が高く設定されています。
実務上は、すでに廃業・解散を検討している段階であれば、解約理由を整理したうえで、どの種類の解約に該当するかを確認し、できる限り有利な支給率となる形で手続きを進めることがポイントです。
解約手当金と税金のポイント
解約手当金は、法人では原則として全額が益金、個人事業主では事業所得等の収入金額として取り扱われ、受け取った年度の所得に加算されます。
そのため、利益が十分に出ている年に高額の解約手当金を受け取ると、法人税・所得税・住民税の負担が一気に増える可能性があり、他の損金・控除とのバランスを見ながら解約年度を検討することが重要です。
40か月到達後の解約タイミングの考え方
掛金納付月数が40か月以上になると、任意解約でも原則として返戻率は100%となり、積み立てた掛金元本を全額回収できる水準になります。
このため、「40か月までは解約を我慢し、40か月を超えたタイミングで、設備投資や退職金支給など大きな損金が発生する年度に合わせて解約する」という出口戦略が、節税と資金回収の両面からよく検討されます。
2024年10月以降の税制改正と再加入制限
令和6年(2024年)10月以降の税制改正では、一度解約した後に2年以内に再加入した場合、その再加入後2年間の掛金は損金・必要経費算入が認められず、資産計上となることが定められました。
短期間で「解約→再加入→解約」を繰り返すことで課税を先送りする利用を抑制し、制度本来の連鎖倒産対策としての性格を強める趣旨とされているため、解約時には「今後再加入する可能性」と「2年間の損金不算入リスク」も併せて検討する必要があります。
解約手続きと実務上の注意点
解約手当金を受け取るためには、中小機構指定の「解約手当金請求書」と、共済契約締結証書、振込口座の確認書類などを準備し、取扱窓口や郵送で提出する手続きが必要です。
請求書が中小機構に到着した日の翌日から起算して30営業日以内に解約手当金が振り込まれるとされているため、資金繰り計画上は「実際に資金が入金されるタイミング」も考慮してスケジュールを組むと安心です。
事例イメージ:解約のタイミングをずらして節税効果を調整
たとえば、ある製造業の法人が毎月20万円の掛金を40か月積み立て、掛金総額が上限の800万円に達したケースを想定してみます(実在の事例ではなく、解説用の架空例です)。
この会社が、赤字決算となる見込みの年度に合わせて解約すれば、800万円の解約手当金が益金となっても、赤字や繰越欠損金、設備投資による減価償却費等と相殺され、実効税負担を抑えながら資金を回収できる可能性があります。
行政書士に相談するメリット
経営セーフティ共済の解約タイミングを検討する際には、会社の決算状況、今後の投資・退職金・事業承継の予定など、複数の要素を総合的に整理する必要があります。
行政書士は、会社設立・組織再編・事業承継などの手続全体の中で、経営セーフティ共済の位置づけを整理し、税理士など他の専門家と連携しながら、無理のない解約タイミングや必要書類の準備をサポートすることができます。
まとめ
経営セーフティ共済は、掛金を12か月以上積み立てれば8割以上、40か月以上であれば全額が戻る一方、1〜11か月での解約は掛け捨てとなるため、「何かあったらすぐ解約」ではなく、返戻率と資金需要を踏まえてタイミングを設計することが重要です。
さらに、解約手当金は益金・収入となり、2024年10月以降は解約から2年以内の再加入では掛金が損金算入できないなど、税務面の影響も大きいため、決算・投資・退職金・事業承継の予定とあわせて、専門家に早めに相談しながら解約戦略を検討していただくことをおすすめします。

