経営セーフティ共済の節税効果を最大化するタイミング戦略を行政書士が解説
◆はじめに
経営セーフティ共済(中小企業倒産防止共済)は、掛金を全額損金(法人)・必要経費(個人事業主)にできる数少ない公的制度として、節税と内部留保の両方を狙える仕組みです。
一方で、解約時には解約手当金が益金・事業収入となり課税されるため、「掛けるタイミング」と「受け取るタイミング」を設計しなければ、節税効果が相殺されてしまうこともあります。
この記事では、中小企業基盤整備機構や国税庁等の公表情報を踏まえながら、経営セーフティ共済の節税効果を最大化するためのタイミング戦略について、会社設立・運営を支援する行政書士の視点で解説します。
経営セーフティ共済の基本と「課税の先送り」という考え方
経営セーフティ共済は、中小企業倒産防止共済法に基づき、中小機構が運営する制度で、掛金月額5,000円〜20万円(年最大240万円)を積み立てることができます。
拠出した掛金は、拠出時には全額を損金または必要経費に算入できる一方、解約して解約手当金を受け取ったときに、法人では益金、個人事業主では事業所得の収入金額として課税されるため、「税金を将来に繰り延べる」性格が強い制度です。
したがって、単に節税目的で加入するのではなく、「利益が出ている年に掛金を計上し、税負担を抑えつつ資金を社外流出させずに積み上げ、将来、税率負担が低くなるタイミングで解約する」という時間軸の設計がポイントになります。
返戻率と解約タイミングの関係を押さえる
経営セーフティ共済では、掛金納付月数と解約理由に応じて解約手当金の支給率(返戻率)が決まります。
自己都合の任意解約でも、掛金を12か月以上納めていれば掛金総額の8割以上が戻り、40か月以上納めれば掛金全額が戻る一方、1〜11か月で解約すると返戻率0%となり掛け捨てになるため、少なくとも12か月、可能であれば40か月以上の継続を前提にタイミングを検討することが重要です。
また、法人解散や個人事業主の廃業などによる「みなし解約」の場合には任意解約より返戻率が高くなるケースもあるため、事業承継や組織再編のスケジュールと合わせて出口を設計することで、元本割れリスクを抑えながら資金回収を行いやすくなります。
節税を最大化する「掛金を支出する側」のタイミング
掛金は全額損金・必要経費算入が認められているため、黒字が見込まれる年度や、利益が一時的に膨らむ年度に掛金を増額・前納することで、その年度の課税所得を圧縮することができます。
特に、月額20万円をフル活用して年240万円を拠出した場合、実効税率30%程度の法人であれば、理論上70万円前後の税負担軽減効果が期待できるため、決算前に利益水準を確認しつつ、無理のない範囲で掛金を調整する戦略が有効です。
ただし、令和6年度税制改正により、解約後2年間は再加入しても掛金が損金・必要経費に算入できないなど、短期間で「掛けては解約」を繰り返すスキームには制限が設けられているため、短期的な節税狙いではなく中長期の資金計画に基づいた積立が求められます。
節税を最大化する「解約して受け取る側」のタイミング
解約手当金は、受け取った事業年度の益金・事業収入として課税対象となるため、黒字が大きい年度に解約すると、解約手当金が上乗せされて法人税や所得税が一気に増加するおそれがあります。
一方で、赤字決算や繰越欠損金がある年度、設備投資などで減価償却費が多く計上される年度、役員退職金支給により損金が大きくなる年度等に解約すれば、解約手当金を受け取っても実効税負担を抑えながら資金を回収できる可能性が高まります。
つまり、「利益が出ているときに掛け、利益が圧縮される(または赤字が見込まれる)タイミングで解約する」という逆張りの時間差を意識することで、同じ掛金でも手取額の差が大きくなる点を押さえておく必要があります。
モデルケースで見るタイミング戦略のイメージ
例えば、ある製造業の中小企業が、設立から数年後に業績が安定し、3〜5年程度は黒字が続く見込みとなったため、毎月15万円(年180万円)の掛金で経営セーフティ共済に加入したとします(仮想事例)。
利益が厚い3年間は掛金を継続し、その間に540万円の掛金を損金算入して法人税負担を抑えつつ、40か月以上加入した後、設備投資で減価償却費が大きくなる年度に解約すれば、返戻率100%で540万円を受け取りながら、税負担の増加を最小限に抑えられる可能性があります。
逆に、40か月に到達した直後、業績が絶好調で他に所得控除・損金要因が少ない年度に解約してしまうと、解約手当金がそのまま課税所得を押し上げ、結果として「掛けたときの節税額<受け取ったときの税負担」となることもあり得るため注意が必要です。
最近の制度改正と「やりすぎ節税」への注意点
中小企業倒産防止共済制度については、短期間で加入・解約を繰り返し、実質的に税負担の繰り延べを超えた節税スキームとして利用するケースが問題視され、解約後2年間の損金算入制限などの対応が行われています。
また、返戻率が100%となる加入3〜4年目に解約が集中する傾向についても、公的資料で指摘されており、「税負担だけ」を見て行動すると制度趣旨に反する運用になりかねません。
経営セーフティ共済は本来、取引先倒産による連鎖倒産を防ぐためのセーフティネットであることを踏まえ、資金繰りリスクへの備えと節税効果のバランスを取ることが、中長期的には会社の信用力や金融機関からの評価にもつながります。
行政書士に相談するメリット
経営セーフティ共済の具体的な掛金設定や解約タイミングの決定には、決算数値の分析や将来の投資計画、役員退職金・事業承継スキームなどとの総合調整が不可欠です。
行政書士は、会社設立や定款変更、組織再編、事業承継の設計などの手続と併せて、経営セーフティ共済をどの段階で活用するか、どの場面で解約・借入を検討するかといった全体像を整理する役割を担うことができます。
税務処理そのものは税理士の専門領域となるため、税理士と連携しながら、制度の趣旨を踏まえた無理のない節税・資金繰り戦略を構築していくことが望ましいでしょう。
まとめ
経営セーフティ共済は、掛金を拠出する段階では全額損金・必要経費となり、解約手当金を受け取る時点で課税される「課税の繰り延べ」制度であるため、「いつ掛けて、いつ解約するか」というタイミング設計が節税効果を左右します。
少なくとも12か月以上、可能であれば40か月以上の継続を前提に、利益が厚い年度に掛金を増やし、赤字や繰越欠損、設備投資・退職金支給などで税負担が軽くなる年度に解約することで、資金繰りと節税効果を両立しやすくなります。
一方で、令和6年度税制改正により短期的な解約・再加入を繰り返すスキームには制限が設けられているため、制度趣旨である「連鎖倒産防止」という原点を踏まえつつ、決算・投資・事業承継の計画と合わせて、税理士・行政書士など専門家に早めに相談しながら自社に合ったタイミング戦略を検討することをおすすめします。

