経営セーフティ共済の貸付限度額と返済条件を具体的にシミュレーション
はじめに
経営セーフティ共済(中小企業倒産防止共済)は、取引先が倒産したときの資金繰り対策だけでなく、平常時の資金調達にも使える非常に優れた制度です。
しかし「いざというとき、実際にいくら借りられて、返済はどのくらいの負担になるのか」がイメージしにくいというご相談も多いです。
この記事では、公的機関等の情報に基づき、共済金貸付と一時貸付金について、貸付限度額と返済イメージを具体的なシミュレーションを交えて解説します。
経営セーフティ共済の基本と2つの貸付
経営セーフティ共済は、中小企業者や個人事業主が掛金を積み立て、取引先倒産時に無担保・無保証・無利子で共済金の貸付を受けられる制度です。
制度の運営主体は独立行政法人中小企業基盤整備機構(中小機構)で、その概要は中小企業庁や中小機構のサイトで公表されています。
- 取引先が倒産したときに利用する「共済金貸付」
- 取引先が倒産していない平常時に利用できる「一時貸付金」
共済金貸付の貸付限度額と返済条件
共済金貸付は、取引先事業者の倒産により売掛金債権等の回収が困難になったときに利用できる貸付です。
貸付限度額は「回収困難となった売掛金等の額」と「掛金総額の10倍」のいずれか少ない方で、原則50万円〜8,000万円(5万円単位)とされています。
返済期間は貸付額に応じて5年・6年・7年のいずれかで、いずれも最初の6か月は据置期間、その後毎月均等分割で返済します。
また、共済金貸付は無担保・無保証人・無利子ですが、貸付額の10分の1に相当する掛金の権利が消滅する点が制度上のコストとなります。
共済金貸付のシミュレーション(5,000万円借入れ)
ここでは、架空の事例として、製造業A社が取引先倒産により5,000万円の売掛金が回収不能になり、掛金総額が800万円まで積み立てられていたケースを想定します。
この場合、掛金総額の10倍は8,000万円となり、被害額5,000万円の方が少ないため、共済金貸付の限度額は5,000万円となります。
5,000万円の貸付を受けた場合、返済期間は「5,000万円以上6,500万円未満」に該当し6年(うち据置6か月)となります。
6年返済(72か月)のうち最初の6か月は元金据置のため、残り66か月で均等返済すると、毎月の元金返済額は約75万7千円程度となるイメージです(利子は無利子のため元金のみ)。
一時貸付金の貸付限度額と返済条件
一時貸付金は、取引先が倒産していない通常時に、共済契約者が臨時の事業資金を必要とするときに利用できる制度です。
貸付限度額は、中小機構に解約を申し出た場合に受け取れる解約手当金の95%の範囲内で、掛金納付月数に応じて「解約手当金×一定割合×95%」という形で計算されます。
一時貸付金は、借入限度額の範囲内で30万円以上、5万円単位で借入れが可能とされています。
借入期間は1年間で、原則として期限一括返済(満期一括償還)となり、返済期日の約1か月前に中小機構から返済案内と振込票が送付されます。
一時貸付金のシミュレーション(掛金総額600万円・納付40か月)
次に、サービス業B社が資金繰りのつなぎとして一時貸付金を利用するケースを想定します(実際の事務所の取扱事例ではなく、制度理解のための架空例です)。
前提条件として、掛金総額600万円・掛金納付月数40か月とします。
公表資料によれば、一時貸付金の借入限度額は掛金納付月数に応じて「解約手当金(=掛金総額に一定割合を掛けた金額)の95%」とされています。
納付月数40か月以上の区分では解約手当金が掛金総額の95%となるため、600万円×95%×95%=約541万5千円が借入限度額の目安となります(あくまで制度上の一般的な計算イメージです)。
B社がこの限度額の範囲内で500万円を一時貸付として借り入れた場合、借入期間は1年間で、原則として1年後に500万円を一括返済する必要があります。
一時貸付金には所定の利率が適用され、利息相当額があらかじめ差し引かれて振り込まれる方式が採用されているため、実際に手元に入る金額は借入申込額より少なくなる点にも注意が必要です(利率は中小機構が公表する最新情報を要確認)。
一時貸付金の借換・返済に関する実務上のポイント
一時貸付金は原則1年後に一括返済ですが、「同額借換」「減額借換」「増額借換」といった制度が用意されており、所定の手続きを行うことで、実質的に借入期間を延長することも可能です。
ただし、返済遅延が続くと掛金の取り崩しによる返済や、解約時に解約手当金から未返済分が控除されるなどの取り扱いがあるため、資金繰り計画と合わせて慎重に検討する必要があります。
返済期日の約1か月前には中小機構から「償還金振込票」等が送付されるため、資金の手当てと振込手続を早めに準備しておくことが重要です。
繰上返済を希望する場合には、共済相談室等に連絡のうえ、所定の手続に従うこととされています。
シミュレーションから見える活用戦略
共済金貸付は、取引先倒産という緊急時に、売掛金被害額を一定程度カバーする資金を無利子で確保できる心強い制度です。
一方、一時貸付金は平常時の資金繰りの「セーフティライン」として、解約手当金を担保にした短期のつなぎ資金として活用できます。
ただし、共済金貸付を受けると掛金の一部権利が消滅し、一時貸付金は解約手当金の範囲内でしか借りられないため、「どのタイミングで、どちらの制度を使うか」を事前に設計しておくことが重要です。
掛金額や納付期間をどう設定するかで、将来の借入余力が大きく変わるため、資金繰り計画や事業計画とあわせて、中長期的に設計していく視点が求められます。
まとめ
経営セーフティ共済の共済金貸付は、取引先倒産時に「被害額」と「掛金総額の10倍」の少ない方を上限として、最大8,000万円まで無利子で借入れができる制度です。
返済は5〜7年の分割払いで、6か月の据置期間後に毎月均等返済する仕組みとなっており、緊急時の資金繰りを中長期で支えることができます。
一時貸付金は、解約手当金の95%の範囲内で1年間の短期資金を調達できる制度で、掛金納付月数に応じて借入限度額が変動し、30万円以上5万円単位での借入れが可能です。
いずれの制度も、公的な共済制度として非常に有用ですが、具体的な金額・条件は時期や制度改正により変動し得るため、実際に利用を検討する際には、中小機構や中小企業庁などの最新の公表資料を必ず確認することをおすすめします。
制度の概要やシミュレーションを踏まえ、貴社の事業規模・取引先の状況・将来の資金需要を整理し、自社にとって最適な掛金設定や利用タイミングを検討してみてください。
専門家に相談しながら設計することで、経営セーフティ共済を「いざというときの保険」から「戦略的な資金調達ツール」へと一段と活用しやすくなります。

