経営セーフティ共済で資金繰りを安定化!中小企業の実例から学ぶ上手な活用法
はじめに
中小企業にとって、資金繰りの安定は経営そのものと言っても過言ではありません。特に取引先の倒産や売掛金の回収不能は、黒字企業であっても一気に資金ショートを招くリスクがあります。
その備えとして活用できるのが、「経営セーフティ共済(中小企業倒産防止共済制度)」です。この記事では、公的機関の情報をもとに制度のポイントを整理しつつ、架空の事例を通じて、資金繰り改善にどのように役立つのかを分かりやすく解説します。
経営セーフティ共済とは
経営セーフティ共済(中小企業倒産防止共済制度)は、取引先事業者が倒産して売掛金債権等の回収が困難になった場合に、共済金の貸付を受けられる国の共済制度です。
独立行政法人中小企業基盤整備機構(中小機構)が運営しており、「中小企業倒産防止共済法」に基づいて実施されています。
この制度では、あらかじめ掛金を積み立てておくことで、万が一の際に無担保・無保証人で共済金の貸付を受けることができます。
取引先の倒産による連鎖倒産や急激な資金繰り悪化を防ぐことが目的とされており、中小企業の経営安定化のためのセーフティネットとして位置づけられています。
掛金・借入限度額などの基本制度
掛金は月額5,000円から20万円まで、5,000円刻みで自由に選択でき、累計の掛金総額が800万円になるまで積み立てることができます。
掛金は期間内で増額・減額も可能で、資金状況や利益水準に応じて柔軟に調整できる仕組みになっています。
共済金の貸付けは、積み立てた掛金総額の10倍(ただし最高8,000万円)を上限として、被害額の範囲内で無担保・無保証人・原則無利子で受けることができます。
このように、比較的少額の掛金でも大きな「万が一の資金枠」を用意できる点が、経営セーフティ共済の大きな特徴です。
税務上の取り扱いと資金繰りへの効果
法人が支払った掛金は、租税特別措置法に基づき、支払った事業年度の損金の額に算入することが認められています。
個人事業主の場合も、事業所得に係る掛金については必要経費として全額算入が認められるため、課税所得を圧縮し、法人税・所得税の負担軽減に寄与します。
利益が出ている年度に積極的に掛金を支払うことで、税負担を抑えつつ、将来のための内部留保を共済という形で積み立てることができます。
さらに、一定期間加入後に解約した場合には解約手当金を受け取ることができるため、計画的に活用すれば「節税+将来の資金確保」という両面から資金繰り改善に役立てることが可能です(ただし、解約タイミングや税務上の取扱いには注意が必要です)。
架空事例:製造業A社の資金繰り改善ストーリー
ここからは、実在の企業・顧問先とは一切関係のない「架空の事例」として、経営セーフティ共済が資金繰り改善にどのように役立ち得るかを見ていきます。この事例は解説のためのフィクションであり、特定の事務所の実績紹介ではありません。
1. 利益は出ているのに現金が足りないA社
千葉県で金属加工業を営む法人「A社(従業員12名、設立8年目)」は、主力取引先からの受注が順調で、決算書上は毎年黒字を確保していました。
しかし、大口の掛取引が増えたことで売掛金残高が膨らみ、設備投資の返済も重なり、慢性的な資金繰りのタイトさに頭を悩ませていました。
利益は出ているものの、納税資金や賞与支給のタイミングで銀行融資に頼らざるを得ない状況が続き、経営者は「余裕資金のバッファ」をつくる必要性を感じていました。
また、もし主力取引先が倒産した場合には、数千万円規模の売掛金が一気に焦げ付く可能性があり、そのリスクにも不安を抱えていました。
2. 経営セーフティ共済への加入と積立
A社は顧問税理士からの助言も参考にしつつ、毎月の掛金15万円で経営セーフティ共済に加入することにしました(年間180万円、数年かけて掛金総額の積み上げを目標)。
利益が比較的好調な年度は、決算前に数ヶ月分の前納も活用し、損金算入による税負担軽減と将来の資金枠の拡大を図る形で運用しました。
数年経過した時点で、A社の掛金総額は700万円を超え、万が一の際には約7,000万円までの共済金貸付枠を確保できる状態となりました。
この時点で、経営者は「いざという時には共済金で凌げる」という安心感を得ており、金融機関との交渉においても、自己防衛策をとっていることを説明できるようになりました。
3. 取引先の支払い遅延と共済貸付の活用
ある年、A社の主要取引先の一社が業況悪化により支払いが大幅に遅延し、一部売掛金の回収が不透明になりました。
売掛金の回収難により資金繰り悪化が予想されたため、A社は経営セーフティ共済の共済金貸付制度の利用を検討しました。
A社は必要資金を試算したうえで、被害見込み額の範囲内で共済金の貸付を受けることにし、無担保・無保証人・原則無利子で資金を確保することができました。
その結果、仕入代金や人件費、借入金返済を滞りなく支払うことができ、金融機関からの急な追加融資に頼ることなく、資金繰りの乱れを最小限に抑えることができました。
資金繰り改善のポイントと注意点
経営セーフティ共済を資金繰り改善に活用する際のポイントとして、以下のような点が挙げられます。
- 黒字で資金に余裕がある時期に、計画的に掛金を積み立てることで、税負担を抑えながら「将来の資金枠」を確保できること。
- 取引先の倒産や回収不能が生じた際に、迅速に共済金の貸付を受けることで、急な資金ショックを和らげられること。
- 解約時には解約手当金の受取りが生じる一方、その時点で課税所得が増加する場合もあるため、「いつ・どのように解約するか」という出口戦略を税理士等と相談しておくこと。
また、令和6年度税制改正では掛金の取扱いに関する見直しも行われているため、最新の税制・通達等を確認しながら活用することが重要です。
制度内容や税務上の位置づけは、今後も変更される可能性があるため、中小機構や中小企業庁など公的機関の情報を定期的にチェックすることをおすすめします。
行政書士に相談するメリット
会社設立や定款変更、各種許認可と併せて、経営セーフティ共済などの共済制度も含めた「資金繰りの仕組みづくり」を検討することで、創業期から安定した経営基盤を構築しやすくなります。
とくに複数の共済(小規模企業共済・経営セーフティ共済など)を組み合わせる場合には、役員報酬や事業計画とのバランスを踏まえた設計が重要になります。
行政書士は、会社設立時の事業目的や機関設計、資金調達スキームなどと一体で、こうした制度の位置づけを整理するお手伝いが可能です。
税務の詳細な取扱いについては税理士と連携しつつ、法務と実務の両面から、中小企業の資金繰り対策をサポートしていくことができます。
まとめ
経営セーフティ共済は、取引先倒産時の資金ショックに備えるための国の共済制度であり、掛金の全額損金算入など税務面のメリットも備えた心強い仕組みです。
計画的に掛金を積み立てておくことで、いざというときの資金枠を確保しつつ、平時の資金繰りや節税にも役立てることができます。
一方で、解約時の課税や制度改正など、注意すべき点も存在するため、自社の状況に合わせた「入り方」と「出口戦略」が重要です。
会社設立や事業計画の段階から、経営セーフティ共済を含む共済制度の活用を検討し、専門家と相談しながら、自社にとって最適な資金繰りの仕組みづくりを進めていきましょう。

