経営セーフティ共済と倒産防止共済は同じ?正式名称・制度内容と呼び方の違いを行政書士が解説
はじめに
経営者向けの共済制度を調べていると、「経営セーフティ共済」と「倒産防止共済」という似た言葉が出てきて、別の制度なのか同じものなのか分かりにくいと感じる方が多いです。
実際には、「中小企業倒産防止共済制度」の通称が「経営セーフティ共済」であり、金融機関や専門家のあいだでは「倒産防止共済」と呼ばれることもあるため、複数の名前が混在しているのが実情です。
この記事では、中小企業庁所管の公的制度としての概要を踏まえながら、呼び方の違いと制度のポイントを分かりやすく解説します。
経営セーフティ共済と倒産防止共済は同じ制度?
「経営セーフティ共済」は、独立行政法人中小企業基盤整備機構(中小機構)が運営する「中小企業倒産防止共済制度」の愛称です。
一方で「倒産防止共済」は、この中小企業倒産防止共済制度を機能面から表した通俗的な呼び方であり、どちらも同じ制度を指していると理解して問題ありません。
公的な正式名称は「中小企業倒産防止共済」で、法律上もこの名称が用いられています。
中小機構の案内やリーフレットでは、中小企業者の経営を守るイメージを伝えるために「経営セーフティ共済」という名称が前面に出されており、節税や資金繰りの解説記事などでは「倒産防止共済」という言葉が広く使われています。
制度の目的と基本的な仕組み
この共済制度の目的は、取引先事業者が倒産した場合に中小企業が連鎖倒産や深刻な資金難に陥ることを防ぐことです。
具体的には、平常時から掛金を積み立てておき、万一取引先の倒産で売掛金などが回収不能になったときに、掛金総額の最大10倍(上限8,000万円)まで共済金の貸付けを受けられる仕組みになっています。
共済金はあくまで「貸付」であり、損失補填の給付金ではない点が重要です。
ただし、連鎖倒産を防止するという制度趣旨から、無担保・無保証人で利用でき、通常の融資に比べて利用しやすい公的な資金調達手段として位置付けられています。
掛金の取り扱いと節税効果
経営セーフティ共済(中小企業倒産防止共済)の掛金は、月5,000円から20万円までの範囲で選択でき、前納も可能です。
税務上は、支払った掛金全額を法人であれば損金、個人事業主であれば必要経費として計上できるため、資金の積立てと同時に節税効果が期待できる制度として利用されています。
掛金の累計が800万円に達するまで積み立てることができ、40か月以上継続して加入したうえで任意解約した場合には、掛金相当額のほぼ全額が解約手当金として戻る制度設計になっています。
このため、取引先倒産に備える本来の目的に加え、「将来の設備投資・運転資金の原資づくり」や「利益が出た年度の税負担平準化」といった観点から活用されることも少なくありません。
加入できる事業者と主な要件
加入できるのは、中小企業信用保険法で定める中小企業者および一定の小規模企業者であり、業種ごとに資本金や従業員数の上限が細かく規定されています。
法人・個人事業主の別にかかわらず、取引先に対する売掛債権などが発生する取引を日常的に行っていることが前提とされており、掛金の口座振替などの条件を満たせば、幅広い事業者が利用可能です。
なお、同じく中小機構が運営する「小規模企業共済」は、個人事業主や会社役員の退職金準備を目的とする別の制度であり、経営セーフティ共済(中小企業倒産防止共済)とは目的も給付内容も異なります。
両方の要件を満たす場合には、併用して加入することも認められているため、事業のリスク管理と将来の生活資金準備を組み合わせた設計も検討できます。
呼び方が複数ある理由
公的な制度名は「中小企業倒産防止共済」ですが、制度のイメージを伝えやすくするために「経営セーフティ共済」という呼称が広報上使われるようになりました。
その一方で、金融機関や税理士・コンサルタントなどの実務家のあいだでは、制度の性格を端的に示す「倒産防止共済」という呼び方が定着しているため、実務と広報で名称が混在しているのが現状です。
検索エンジンや資料で調べる際には、「経営セーフティ共済」「中小企業倒産防止共済」「倒産防止共済」のいずれのキーワードも同じ制度を指していると理解しておくと混乱を防げます。
ただし、契約書や決算書の注記、顧客への正式な書面などでは、条文や公的資料に沿って「中小企業倒産防止共済」または「中小企業倒産防止共済(経営セーフティ共済)」と表記しておくと安心です。
事例:名称の違いで勘違いしやすいパターン
たとえば、製造業を営むA社(資本金1,000万円、従業員15名)の社長が、銀行担当者から「倒産防止共済に入っておくと取引先が倒れたときに安心ですよ」と勧められたとします。これは、中小機構のパンフレットに掲載されている「経営セーフティ共済」と同じ制度ですが、名称の違いから別の商品だと勘違いするケースがあります。
このような場合でも、制度の正式名称・運営主体・目的が一致していれば同一制度と判断できるため、パンフレットや公式サイトで要件や掛金上限などを確認しつつ、一つの制度として整理しておくことが重要です。
また、フリーランスのBさんが「小規模企業共済」と「経営セーフティ共済(倒産防止共済)」を同じ退職金制度だと思い込み、どちらに入るべきか悩むケースも見られます。
実際には、小規模企業共済は「経営者個人の退職金準備」、経営セーフティ共済は「取引先倒産リスクと資金繰りへの備え」と目的が異なるため、廃業後の生活設計なのか、事業継続のためのリスクヘッジなのかという視点で整理して選択することが大切です。
行政書士としての活用ポイント
会社設立の相談を受ける場面では、資本金の額や取引形態をヒアリングしつつ、「取引先倒産リスクへの備え」として経営セーフティ共済(中小企業倒産防止共済)が選択肢になりうることを案内すると、経営者の安心感につながります。
同時に、小規模企業共済やその他の共済制度との違いを明確に説明し、「事業リスクに備える制度」と「経営者個人の老後・廃業後に備える制度」を分けて示すことで、資金計画全体の整理をサポートしやすくなります。
ただし、共済制度の加入はあくまで任意であり、具体的な節税額や利回りの試算、他の金融商品の比較については、税理士や金融機関など他士業との連携が望ましい領域です。
行政書士としては、公的制度の仕組み・目的・基本要件を正確に伝えたうえで、会社設立後の事業計画や資金繰りの相談窓口として継続的に伴走するスタンスが適しています。
まとめ
「経営セーフティ共済」「倒産防止共済」「中小企業倒産防止共済」は、いずれも中小機構が運営する同じ共済制度を指す名称であり、主な目的は取引先倒産による連鎖倒産リスクから中小企業を守ることです。
掛金全額を損金(必要経費)算入でき、一定期間以上の加入で解約手当金も受け取れるため、リスクヘッジと資金準備・節税を兼ねた公的制度として、多くの中小企業が活用しています。
名称の違いで別の制度だと誤解されることがあるため、正式名称と通称の関係、目的や小規模企業共済との違いを押さえたうえで、お客様の事業規模や取引形態に応じた利用の可否を検討することが大切です。
会社設立・運営の相談対応では、制度の仕組みを分かりやすく説明しつつ、他士業とも連携しながら、中長期的な経営と資金計画の一部として位置づけていく視点が求められます。

