経営セーフティ共済の共済金を受け取ったときの税務上の取扱いをわかりやすく解説

経営セーフティ共済(中小企業倒産防止共済)は、取引先の倒産による連鎖倒産リスクに備えつつ、掛金を損金算入できる制度として、中小企業や個人事業主に広く利用されている共済制度です。
一方で、「共済金を受け取ったとき(貸付を受けたときや解約手当金を受け取ったとき)の税務上の取扱い」は、実務上のポイントが多く、誤ると予期せぬ課税や資金繰り悪化を招くおそれがあります。

この記事では、政府・公的機関などの情報を踏まえながら、経営セーフティ共済の共済金を受け取ったときの税務上の取扱いを、法人・個人事業主の双方を念頭に、できるだけわかりやすく整理します。


経営セーフティ共済は、中小企業倒産防止共済法に基づき、中小企業基盤整備機構が運営する制度で、取引先が倒産した場合に積み立て掛金の最大10倍(上限8,000万円)の範囲で共済金の貸付けを受けられます。
掛金は、法人では損金、個人事業主では事業所得の必要経費に算入できるとされており、税務上は「掛金支払時に所得を圧縮し、解約時・受取時に課税される仕組み(課税の繰延べ)」として位置付けられています。

このため、掛金の段階では節税効果がある一方で、解約手当金などを受け取るタイミングで課税所得が増加する点を踏まえた「出口戦略」を検討することが重要になります。


経営セーフティ共済の最大の特徴は、取引先が倒産した場合などに、売掛債権等の回収不能リスクに備えて共済金の貸付けを受けられる点です。
この「共済金の貸付け」は、あくまで借入であり、原則として法人税・所得税の課税対象となる収益(益金や事業所得の収入)には該当せず、貸付金(負債)として処理するのが基本的な考え方です。

もっとも、共済金の貸付けを受けた場合には、貸付額の一部に相当する掛金の権利が消滅するなど、制度独自の取扱いがあり、損金算入済みの掛金との関係で実質的な負担や今後の解約手当金の水準に影響する点にも注意が必要です。


経営セーフティ共済を解約した場合などに受け取る「解約手当金(解約返戻金)」は、法人では益金、個人事業主では事業所得の収入金額として、原則として全額が課税対象となります。
解約手当金は、これまで損金・必要経費として計上してきた掛金に対応する収入と位置付けられ、課税の繰延べが解消されるタイミングで収益計上するという考え方です。

なお、解約手当金は、消費税法上は「資金の預け入れに対する返戻金」と同様の性質と解され、金融取引として消費税の課税対象外(不課税取引)とされるのが一般的な取扱いです。
そのため、会計上は益金(収入)として計上しつつ、消費税の課税標準には含めない処理を検討します。


法人が経営セーフティ共済に加入している場合、掛金は原則として支払った事業年度の損金とすることが認められていますが、前納掛金の一部については租税特別措置法第66条の11の枠組みとの関係で注意が必要とされています。
また、令和6年10月1日以降の解約・再加入に関しては、解約後2年間の掛金について損金算入が制限される取扱いが公表されており、短期解約と再加入を繰り返すことによる節税スキームに対する規制が強化されています。

解約手当金を受け取る期には、原則としてその全額が益金に算入されるため、設備投資や役員退職金の支給など多額の費用計上とタイミングを合わせる「出口設計」を検討することが、法人税負担と資金繰りの両面から有効とされています。
決算期直前の解約など、期末の利益調整を目的とした利用については、将来年度の税負担増を伴うため、単年度ではなく中長期の収支を踏まえた判断が望ましいです。


個人事業主が経営セーフティ共済に加入する場合、掛金は事業所得の必要経費に算入できる一方、解約手当金を受け取ったときには事業所得の収入金額として課税されます。
そのため、高い所得税率が適用される年に解約すると、多額の税負担が発生するおそれがあり、開業からの所得推移や今後の事業規模の見通しを踏まえた解約タイミングの検討が重要です。

また、個人事業主が死亡した場合に解約手当金が支給されるケースでは、その受給権が被相続人に属するものと考えられ、準確定申告の対象となる所得と相続税の課税対象(相続財産)双方の観点から検討が必要になるなど、相続との関係でも複雑な論点が生じます。


例えば、ある中小企業(資本金1,000万円、製造業)が数年前から毎月20万円ずつ経営セーフティ共済に加入し、掛金総額が800万円に達した段階で、設備投資の予定に合わせて共済を解約し、解約手当金を受け取るケースを考えてみます。(実在の事例ではなく、説明のための架空例です。)
この企業では、掛金支払時には各事業年度で掛金全額を損金算入し、その結果として各年度の課税所得を圧縮してきましたが、解約年度には800万円相当の解約手当金を益金として計上することになり、その年度の利益が大きく増加する形となります。

そこで、設備投資に伴う減価償却費や、役員退職金などの多額の損金が生じるタイミングに合わせて解約手当金を受け取ることで、トータルの税負担を平準化しやすくなります。
一方、設備投資などの費用とタイミングを合わせずに解約すると、解約年度のみ法人税負担が急増し、資金繰りに悪影響を与えかねないため、事前のシミュレーションと専門家への相談が重要です。


近年、経営セーフティ共済については、解約と再加入を繰り返す節税策への対応として、解約後2年間の掛金について損金(または必要経費)算入を認めない取扱いが導入されています。
具体的には、令和6年10月1日以降に共済契約を解約し、その後2年以内に再加入して支払う掛金は、その期間中損金や必要経費に算入できないとされており、税務上のメリットを目的とした短期解約・再加入スキームには注意が必要です。

このように、掛金を支払う段階だけでなく、解約・再加入を含めた全期間を通じて税務上の取扱いが見直されているため、最新の制度改正情報を確認しつつ、解約・再加入のタイミングを検討することが望まれます。


経営セーフティ共済は、取引先倒産のリスクに備えつつ、掛金を損金(必要経費)算入できる有用な制度ですが、共済金貸付や解約手当金を受け取るタイミングで、法人税・所得税の課税が生じる点を正確に理解しておくことが欠かせません。
とくに、解約手当金は原則として全額が益金・事業所得として課税され、消費税は不課税となるため、「いつ解約するか」「どの年度に収入として計上するか」が、節税と資金繰りの両面で重要な検討ポイントになります。

また、近年の制度改正により、解約後2年間の掛金の損金算入制限なども設けられていることから、単に「節税商品」として安易に利用するのではなく、事業の中長期的な計画や相続対策も含めたトータル設計が求められます。
具体的な解約タイミングや出口戦略は、決算・設備投資・役員退職金などとのバランスを踏まえて、税理士や専門家と相談しながら検討されることをおすすめします。