経営セーフティ共済の共済金貸付制度とは?資金繰りに強くなるためのポイントを行政書士が解説

経営セーフティ共済(中小企業倒産防止共済)は、「取引先の倒産による連鎖倒産を防ぐ」ことを目的とした公的な共済制度です。
その中核となる仕組みが、いざというときに無担保・無保証人でまとまった資金を調達できる「共済金貸付制度」と「一時貸付金制度」です。

この記事では、中小機構など公的機関の情報をもとに、経営セーフティ共済の共済金貸付制度の仕組みと、資金繰りに強い会社づくりにつなげるポイントを、会社設立・運営を支援する行政書士の視点からわかりやすく解説します。

経営セーフティ共済は、独立行政法人中小企業基盤整備機構(中小機構)が運営する、中小企業・個人事業主向けの共済制度です。
取引先事業者が倒産し売掛金債権等の回収が困難になった場合に、共済契約者に対して共済金の貸付を行うことで、当面の資金繰りを支える仕組みとなっています。

加入対象は、一定規模以下の中小企業者や個人事業主で、掛金は月5,000円〜20万円の範囲で選択して積み立てていきます。
掛金は原則として損金(法人)または必要経費(個人)に算入できるため、資金繰り対策と節税対策を同時に進められる点も特徴です。

共済金貸付とは、取引先事業者が倒産して売掛金債権等の回収が困難になったときに、共済契約者が借入れできる制度です。
「倒産」と認められるのは、破産手続開始や民事再生手続開始などの法的整理のほか、手形交換所の取引停止処分を受けた場合など、中小機構が定める事由に該当するときです。

貸付額の上限は、「回収困難となった売掛金債権等の額」と「納付された掛金総額の10倍(最高8,000万円)」のいずれか少ない金額とされています。
この範囲内で共済契約者が請求した金額が、共済金貸付額となる仕組みです。

共済金貸付は、無担保・無保証人で受けられる点が一般の金融機関の融資と大きく異なります。
さらに、共済金貸付については利子がかからず、貸付金額の10分の1に相当する額が掛金から控除される形で制度設計されています。

返済期間は借入額によって異なり、一般的には5年〜7年の範囲で分割償還し、いずれの場合も6か月の据置期間(元金返済を待ってもらえる期間)が設けられています。
まとまった資金を無利子で長期に返済できるため、急激な資金ショートを回避しつつ、返済計画を立てやすい制度といえます。

取引先が倒産していなくても、経営セーフティ共済には「一時貸付金制度」が用意されています。
これは、共済契約者が臨時に事業資金を必要とするとき、機構解約時に支払われる解約手当金の範囲内で資金を借り入れできる制度です。

一時貸付金の借入上限は、掛金納付月数に応じた解約手当金相当額の95%とされ、掛金の積立期間が長くなるほど利用可能額も増えていきます。
借入期間は原則1年間で、償還期日の約1か月前に中小機構から案内が送付されるなど、返済時期の把握もしやすい運用となっています。

共済金貸付の上限は掛金総額の10倍(最高8,000万円)までとされているため、毎月の掛金を継続的に積み立てていくことで、万一の際に利用できる借入枠も大きくなります。
たとえば、掛金総額が400万円であれば、理論上の借入枠は4,000万円(※売掛金の回収困難額との少ない方が上限)となり、期日到来の支払いや人件費の確保など、急激な資金不足への備えとして機能します。

一時貸付金についても、掛金納付月数と掛金総額に応じて借入限度額が段階的に引き上がる仕組みのため、コツコツと積み立てるほど「いざというときの選択肢」が増えていきます。
通常の融資枠とは別に、共済の枠を用意しておくことで、金融機関との交渉力や資金調達の柔軟性が高まる点も見逃せません。

共済金貸付を利用する際は、まず「取引先の倒産」に該当する事由が発生し、その事実を証明する資料(破産手続開始決定の謄本など)を準備する必要があります。
そのうえで、中小機構の登録取扱機関(多くは金融機関)に共済金貸付請求書類を提出し、審査・貸付決定を経て資金が振り込まれる流れです。

一時貸付金を利用する場合は、取引先の倒産は要件ではなく、解約手当金見込額に応じた範囲内で借入れを申し込むことになります。
決算や納税など資金需要が高まるタイミングに合わせて計画的に利用することで、短期借入金に依存しない資金繰りの安定化が期待できます。

たとえば、従業員15名の製造業A社が、長年取引していた販売先からの売掛金2,000万円の回収が、先方の倒産により困難になったとします。
A社がこれまで経営セーフティ共済に加入し、掛金総額300万円を積み立てていた場合、売掛金回収困難額2,000万円と掛金総額の10倍である3,000万円のうち少ない方、すなわち2,000万円を上限として共済金貸付の利用を検討できることになります。

この共済金貸付を活用することで、仕入代金や給与の支払いに必要な運転資金を確保し、金融機関との追加融資交渉の時間を確保することが可能となります。
また、平時から一時貸付金制度も視野に入れて資金計画を立てていれば、決算期や設備投資の前後など「一時的に資金需要が膨らむ局面」においても、資金繰りの選択肢が増えるでしょう。

経営セーフティ共済は、取引先倒産リスクへの備えという役割に加え、「無利子の借入枠を時間をかけて育てていく制度」として位置づけることができます。
銀行融資や日本政策金融公庫の融資だけに頼るのではなく、共済金貸付・一時貸付金を含めた複線的な資金調達ルートを確保しておくことで、資金繰りに強い体制づくりにつながります。

また、掛金が全額損金・必要経費算入できる点を踏まえ、利益が出ているタイミングで加入・増額を検討することで、税負担の平準化と資金繰りの安定化を同時に図ることも可能です。
制度の細かな条件や自社に合った掛金水準については、顧問税理士や行政書士・社会保険労務士など専門家に相談しながら検討すると安心です。

経営セーフティ共済の共済金貸付制度は、取引先の倒産による売掛金回収不能という「最悪の事態」に備えつつ、無担保・無保証・無利子でまとまった資金を借りられる心強い仕組みです。
さらに、一時貸付金制度を併用することで、平時の資金繰りや短期的な資金需要にも柔軟に対応できるようになります。

会社の成長段階や業種、取引先の状況によって最適な掛金水準や活用方法は異なりますので、制度の概要を正しく理解したうえで、自社の資金繰り計画の中に位置づけていくことが大切です。
経営セーフティ共済の具体的な加入条件や手続き、他の共済制度との併用について不安がある場合は、専門家へ早めに相談しながら、自社に合ったリスク対策を検討してみてください。