社宅制度を活用した節税対策|中小企業経営者・一人会社社長のための実践ガイド

社長や役員の自宅家賃を「そのまま給与」で支給していると、所得税・住民税だけでなく社会保険料まで増えてしまい、会社と個人の双方にとって負担が重くなりやすいです。
そこで注目されているのが、社宅制度(借上社宅・役員社宅)を活用した節税スキームで、適切に設計すれば「会社の経費を増やしつつ、社長や従業員の手取りを確保する」ことが可能になります。


社宅制度のポイントは、家賃を「個人の手取りから払う」のではなく、「会社が契約・支払いを行い、福利厚生費等として損金算入する」という形に切り替えることです。
会社が負担する社宅家賃・管理費などは、条件を満たせば原則として全額を福利厚生費などとして損金に算入できるため、課税所得が圧縮され、法人税の負担を軽減できます。

一方、従業員や役員は「社宅使用料」という形で一定額を会社に支払うことで、自分の給与から天引きされる住宅手当とは異なり、所得税・住民税、社会保険料が増えにくい形で住居費の支援を受けられます。
この「会社の損金を増やしつつ、個人の課税を抑える」という両面効果が、社宅制度が節税策として評価される理由です。


社宅制度を節税目的で導入する際に必ず押さえておきたいのが、「どの程度まで会社が負担すると給与課税になるか」というラインです。
国税庁は、「使用人(従業員)に社宅や寮などを貸したとき」の課税関係についてガイドラインを公表しており、賃貸料相当額と実際の徴収家賃額との差額が給与として課税される仕組みを示しています。

例えば、従業員に社宅を無償で貸与した場合、その物件の「賃貸料相当額」全額が給与として課税されるとされています。
また、賃貸料相当額より低い家賃を受け取っているときは、その差額部分が給与課税の対象になり、適切な家賃設定をしないと「節税どころか税負担が増える」結果になりかねません。

なお、賃貸料相当額の具体的な計算方法は、物件の種類や自社保有か借上かによって異なり、自社所有の社宅では建物・土地の固定資産税の課税標準額に一定割合を乗じて算定する方法が用いられます。
借上社宅の場合は、近隣家賃や契約家賃を基準にした算定方法を前提として、従業員から賃貸料相当額の50%以上を徴収しているかどうかが、給与課税を回避する目安の一つとされています。


経営者・役員が社宅制度を活用する場合、「役員個人が借りているマンションを会社名義に切り替え、役員社宅として利用する」という形が典型的です。
この場合、会社が支払う家賃の多くを損金として計上でき、役員は「賃貸料相当額の一部」を社宅使用料として会社に支払い、それ以外の部分については現物給与課税のルールに沿って扱われることになります。

例えば、家賃15万円の物件を会社が借り上げ、賃貸料相当額が12万円と算定されたケースを仮定します。

  • 役員が社宅使用料として6万円を支払う(賃貸料相当額の50%)
  • 残りの9万円(実家賃15万円-使用料6万円)は、会社負担の福利厚生費・地代家賃として損金計上

といった設計をすれば、従来「役員個人が手取り給与から支払っていた家賃」の多くを、会社の経費として処理できる可能性があります。
もちろん、役員社宅については一般従業員よりも課税関係が厳格に見られる傾向があるため、「豪華すぎる社宅」と判断されないよう注意が必要です。


ここで、事例として、ある中小企業の例を見てみます。

  • A社:従業員10名のIT企業
  • 社長:40代、賃貸マンション(家賃月18万円)に居住
  • これまで:社長個人名義で契約し、手取り給与から家賃を支払っていた

このケースで、A社が社長居住用マンションを会社名義の借上社宅に変更し、役員社宅制度を導入したと仮定します。

  • 会社がマンションオーナーと賃貸契約を締結し、家賃18万円を支払う
  • 税務上算定した賃貸料相当額を12万円とし、その50%である6万円を社長から社宅使用料として徴収
  • 残りの12万円(会社負担分)のうち、賃貸料相当額との差額などについては、現物給与課税のルールに基づき取扱い

このような設計を行うと、

  • 会社:支払っている家賃の大部分を損金計上でき、法人税を節税できる可能性
  • 社長:住宅手当として現金を受け取る場合と比べて、所得税・住民税・社会保険料の増加を抑えつつ住居費の支援を受けられる可能性

といった効果が期待できます。
ただし、実際には物件の状況や役員報酬額、他の福利厚生とのバランスなどにより税務判断が変わるため、具体的な導入にあたっては税理士等の専門家への相談が不可欠です。


社宅制度を節税目的で導入する際には、次の点に特に注意する必要があります。

  • 就業規則や賃金規程に社宅制度のルールを明文化しておくこと
  • 対象者・物件の条件・家賃負担割合などを合理的かつ公平に定めること
  • 役員社宅については「豪華すぎる」「福利厚生として不相応」と判断されない水準に抑えること
  • 賃貸料相当額の算定根拠や家賃徴収状況を、税務調査を意識して文書・資料で残しておくこと

これらを怠ると、福利厚生費として認められず、否認・追徴課税のリスクが生じます。
また、社宅制度は税務だけでなく労務管理・人事施策とも密接に関わるため、就業規則変更や社内説明のプロセスを含めて慎重に設計することが重要です。

行政書士としては、

  • 社宅規程の新設・改定
  • 役員社宅制度導入に伴う社内書式(申請書・誓約書等)の整備
  • 他の福利厚生制度との整合性を踏まえたルール設計

などの面でサポートできるほか、税務部分については税理士と連携しながら、実務的に運用しやすい仕組み作りを支援することが可能です。


社宅制度は、単なる福利厚生ではなく、「法人税の節税」と「経営者・従業員の手取り確保」を同時に実現し得る強力な手段です。
一方で、国税庁が示す課税ルールや賃貸料相当額の考え方を踏まえた適切な家賃設定を行わないと、かえって給与課税や追徴のリスクを高めてしまいます。

これから社宅制度・役員社宅制度の導入を検討される経営者の方は、節税効果だけでなく、人材定着や採用戦略としての位置付けも含めてトータルで設計することが重要です。
自社に合った制度設計や社宅規程の作成については、行政書士・税理士など専門家に相談しながら進めることで、安心して活用できるスキームに仕上げることができます。