経営セーフティ共済を活用した事業承継・廃業時のリスク対策
はじめに
中小企業の経営者にとって、取引先の倒産や事業承継・廃業時の資金確保は常に大きな課題です。
特に、想定外の倒産や、廃業に伴う清算資金の不足は、会社だけでなく経営者個人の生活にも影響を与えるおそれがあります。
そんなときに役立つ制度が「経営セーフティ共済(中小企業倒産防止共済制度)」です。
今回は、この共済制度の仕組みと、事業承継や廃業時にどのように活用できるのかを解説します。
経営セーフティ共済とは
経営セーフティ共済(正式名称:中小企業倒産防止共済)は、独立行政法人中小企業基盤整備機構(中小機構)が運営する共済制度です。
取引先の倒産によって売掛金が回収できなくなった場合に、無担保・無保証人で共済金の貸付を受けられる仕組みとして、1978年に創設されました。
加入対象は、中小企業者や個人事業主で、業種ごとに資本金や従業員数などの基準が定められています。
掛金の仕組み
掛金は、月額5,000円から20万円まで、5,000円単位で自由に設定でき、累計で800万円まで積み立てが可能です。
掛金は「損金(法人の場合)」または「必要経費(個人事業主の場合)」として全額を経費算入できるため、節税効果もあります。
廃業時の資金確保としての活用
経営セーフティ共済のもう一つの大きなメリットは、掛金の積立金を廃業時や事業承継時に「解約手当金」として受け取れる点です。
解約事由に該当した場合、掛金の納付月数に応じて最大で掛金合計の100%が返戻されます。
解約手当金の受取条件
- 掛金の納付が40か月未満の場合:掛金総額の80〜95%程度
- 40か月以上納付の場合:掛金総額の100%
ただし、受け取り時には課税関係が生じるため、解約時期の選定や他の制度との併用を検討することが重要です。
たとえば、廃業届の提出前に解約するか後にするかによって所得区分が変わるため、税理士等と相談しながら進めるのが望ましいです。
事業承継における経営セーフティ共済の活用
事業承継では、後継者に会社の経営を引き継ぐ際、資金面だけでなくリスク対策の準備も重要です。
経営セーフティ共済を利用していれば、引き継ぎ時の突発的な資金需要や、承継に伴う支払い遅延にも備えることが可能です。
法人経営の場合、代表者の変更後も会社として加入を継続できるため、後継者にスムーズに共済を引き継げます。
ただし、個人事業主が廃業して後継者が新たに事業を始める場合は、別途新規加入が必要になります。
事例:スムーズな廃業準備のための活用例
たとえば、千葉県で製造業を営んでいた60代の個人事業主Aさんは、引退を決意し廃業準備を進めていました。
Aさんは月10万円の掛金で経営セーフティ共済に15年間加入しており、累計で1,800万円の掛金を積み立てていました。
廃業の際に共済を解約したところ、満額の1,800万円を解約手当金として受け取り、それを従業員の退職金支払いと廃業処理費用に充てました。
このように、経営セーフティ共済は「取引先倒産時の備え」としてだけでなく、「廃業資金の準備」としても有効に活用できます。
注意すべきポイント
経営セーフティ共済は非常に利便性の高い制度ですが、以下のような点には注意が必要です。
- 掛金を解約すると再加入までに1年以上の期間を空ける必要がある
- 掛金を減額した場合、再度の増額には制限がある
- 経営状況によっては貸付制度を利用できない場合がある
- 解約手当金の受取時には税金がかかる(所得税または法人税の対象)
制度の内容や取り扱い条件は、中小機構の公式発表に基づいて確認することが大切です。
行政書士によるサポートのポイント
経営セーフティ共済の利用にあたっては、単なる加入だけでなく、「いつ解約するか」「事業承継時にどのように引き継ぐか」など、事業計画全体を踏まえた設計が求められます。
行政書士は、廃業届や事業承継計画書の作成支援を通じて、制度を効果的に活用できるようサポートします。
また他の共済制度や補助金制度との併用プランを提案することで、より安全な事業承継や円滑な廃業を実現することが可能です。
まとめ
経営セーフティ共済は、予期せぬ取引先の倒産だけでなく、廃業や事業承継といった経営上の転機にも柔軟に対応できる強力なリスク対策です。
適切に活用することで、将来の資金不安を軽減し、安心して次のステージへ進むことができます。
制度内容や税務上の取り扱いが複雑な部分もあるため、加入・解約のタイミングや金額設定については、専門家へ相談することをおすすめします。

