経営セーフティ共済に加入するメリットとデメリットを徹底比較
はじめに
経営セーフティ共済(正式名称:中小企業倒産防止共済制度)は、国の機関である中小機構が運営する、中小企業・個人事業主向けの共済制度です。 取引先の倒産による連鎖倒産を防ぐ目的で作られた制度ですが、実務上は「リスク対策」と「資金繰り」「税務(節税)」を同時に検討できるツールとして注目されています。 この記事では、会社設立・運営を支援する行政書士の視点から、メリットとデメリットをできるだけわかりやすく比較していきます。
経営セーフティ共済とは何か
経営セーフティ共済は、取引先事業者が倒産した場合に、積み立てた掛金の最大10倍(上限8,000万円)の範囲で無担保・無保証人の貸付を受けられる制度です。 中小機構が法律に基づいて運営しているため、国の共済として一定の安全性が期待できる点も特徴です。
加入できるのは、一定規模以下の中小企業者や個人事業主で、業種ごとに資本金や従業員数などの要件が定められています。 また、1年以上継続して事業を行っていることなど、継続性に関する条件もあります。
掛金と税務上の取り扱い
掛金は、月額5,000円から20万円までの範囲で5,000円単位で自由に設定でき、途中で増額や減額も可能です。 累計掛金の上限は800万円で、原則として240か月分(20年分)まで積み立てることができます。
税務上、掛金は法人であれば損金、個人事業主であれば事業所得の必要経費として全額算入が認められる特例が設けられています。 ただし、2024年10月1日以降に解約した場合、解約後2年間は掛金を損金・必要経費算入できないとする改正が行われており、解約のタイミングには注意が必要です。
メリット1:取引先倒産リスクへの備え
最も基本的なメリットは、取引先が倒産した際に、被害額に応じて共済金の貸付が受けられることです。 被害額の範囲内で、掛金総額の最高10倍(上限8,000万円)まで借入が可能なため、売掛金の回収不能などによる資金ショートのリスクを大きく軽減できます。
貸付金は無担保・無保証人で利用でき、金融機関からの通常の借入に比べて迅速に資金を確保しやすい点も中小企業にとって大きな安心材料です。
メリット2:資金繰りの安定と「いざ」という時の資金プール
経営セーフティ共済では、取引先倒産時の共済金貸付に加えて、一時貸付金制度などを活用することで、積立掛金を担保とした借入も利用できます。 これにより、決算前後や一時的な資金需要が生じた場合に、銀行融資以外の選択肢として活用することが可能です。
また、掛金を長期間積み立てていけば、解約手当金として原則元本相当額まで戻るため、「緊急時の資金プール」として位置づけることもできます。
メリット3:掛金全額が損金・必要経費になる税務メリット
掛金は、租税特別措置法上の特例により、支払った年の損金または必要経費として全額計上することができます。 一定の利益が出ている年に掛金を増額すれば、その年度の課税所得を圧縮できるため、短期的な節税策として有効に機能する場合があります。
ただし、解約手当金を受け取る際には、その全額が益金や事業所得として課税対象となるため、単純に「税金が得になる」わけではなく、あくまで課税の繰延べ(タイミングの調整)として理解することが重要です。
メリット4:解約手当金と返戻率
掛金を一定期間以上納付していれば、任意解約やみなし解約などの際に解約手当金が支給されます。 掛金納付月数が40か月以上になると、解約手当金の支給率はおおむね掛金元本の100%に達し、元本割れせずに資金を回収できる設計となっています。
解約理由によって支給率が変動し、法人解散など「みなし解約」の方が任意解約より支給率が高めに設定されるケースもあるため、将来の解約タイミングや理由をあらかじめ想定しておくと、資金計画を立てやすくなります。
デメリット1:短期解約時の元本割れ・掛け捨てリスク
大きなデメリットは、加入からの期間が短い段階で解約すると元本割れが発生することです。 任意解約の場合、掛金納付月数が12か月未満だと解約手当金が支給されず掛け捨てとなり、12か月以上でも40か月未満の間は支給率が100%に満たないため、一部元本割れとなります。
経営状況が不安定で、数年以内に解約せざるを得ない可能性が高い場合には、他の資金準備方法と比較して慎重に検討する必要があります。
デメリット2:解約時の税負担とキャッシュフローへの影響
解約手当金は、受け取った事業年度の益金や事業所得となるため、まとまった金額を一度に受け取ると、その年の課税所得が大きく増える可能性があります。 節税目的で多額の掛金を積み立てた後に一括解約すると、解約年度に税負担が集中し、かえってキャッシュフローを圧迫するおそれがある点には注意が必要です。
また、2024年10月以降は、解約から2年間は掛金を損金算入できない制度改正があるため、「解約→再加入→再度大きく損金算入」といった使い方が制限されています。
デメリット3:本来の目的から外れた利用リスク
中小企業庁や中小機構は、経営セーフティ共済の「不適切な利用」に対して注意喚起を行っています。 本来は取引先倒産リスクへの備えとして設計されているにもかかわらず、過度に節税だけを目的として利用すると、資金繰りや税務上のリスクを高めてしまう可能性があります。
制度趣旨や運営主体が公的機関であることを踏まえ、事業継続の安全性向上という原点に立ち返って加入を検討することが望ましいとされています。
具体的なイメージケース
例えば、年商8,000万円規模の製造業A社が、主要取引先の売掛金残高に不安を感じ、毎月10万円の掛金で経営セーフティ共済に加入したとします。 数年後に同取引先が倒産した場合、A社は積み立てた掛金総額の最大10倍までを上限8,000万円の範囲で無担保・無保証人の貸付として受けられるため、売掛金回収不能のショックをある程度吸収できる可能性があります。
一方で、加入から2年程度で任意解約した場合には解約手当金の支給率が100%に満たず、元本割れとなるため、短期的な資金ニーズが読めない段階で安易に掛金を高額設定することは適切とはいえません。
行政書士に相談するメリット
経営セーフティ共済は、会社の財務・税務だけでなく、事業承継や法人解散のタイミングとも密接に関連します。 会社設立や定款変更、事業承継スキームなどと合わせて制度の活用を検討することで、より実務的なメリハリをつけやすくなります。
行政書士は、定款・議事録・各種届出書類の作成を通じて、会社のライフサイクル全体を見据えた手続き支援が可能ですので、「どのタイミングで加入・解約するか」「他の制度とどう組み合わせるか」といった視点からのアドバイスを受けることができます。
まとめ
経営セーフティ共済は、取引先倒産リスクに備えつつ、掛金を損金・必要経費に算入できる点で、中小企業にとって心強い制度です。 一方で、短期解約時の元本割れや、解約手当金受取時の税負担、解約後2年間の損金算入制限など、注意すべきポイントも少なくありません。
加入を検討する際には、「何のために」「どのくらいの期間」「いくらの掛金で」利用するのかを明確にしたうえで、自社の資金繰りや将来の事業計画と照らし合わせて判断することが大切です。 制度の概要や税務上の取扱いは、中小機構・中小企業庁・国税庁などの公的情報を確認しながら、専門家にも相談して進めることをおすすめします。

