マイクロ法人と成年後見制度―代表者が認知症等になった場合の対応

高齢化社会の進展とともに、「マイクロ法人」の設立や運営が増えています。マイクロ法人は、個人事業主や小規模事業者が節税や事業承継などの目的で活用する小規模な株式会社です。しかし、代表者が認知症になるリスクは決して他人事ではありません。会社代表者が認知症等によって判断能力を喪失した場合、どのような問題が生じ、どのように対応すべきなのでしょうか。今回は、政府等の公的情報を基に、「マイクロ法人の代表者が認知症となった場合の成年後見制度による対応」について解説します

マイクロ法人は、多くの場合、代表者自身がほぼ全ての株を保有し、一人で役員を兼任するケースが一般的です。こうした法人の場合、代表者の判断能力喪失は会社経営に直接影響を与えます。具体的には、次のような問題が起こります。

  • 重要な契約や決済ができない
  • 銀行口座の利用ができない
  • 取締役等の選任や変更など株主総会の議決権が行使できない
  • 会社全体の意思決定が停止する可能性

成年後見制度は、認知症や知的障害、精神障害などにより判断能力が不十分な方を法的に支援するための制度です。家庭裁判所が後見人を選任し、本人(被後見人)の財産管理や契約手続きを代行します

制度の概要

  • 家庭裁判所への申立てによって後見人が選任される
  • 後見人は被後見人の財産管理、法律行為の代理、権利擁護等を行う
  • 成年後見人は本人の日常生活に関する行為以外の法律行為の取消権や代理権が与えられる

田中さん(65歳・男性)はマイクロ法人「田中合同会社」を1人で経営していましたが、数年前から認知症の症状がみられるようになりました。家族は会社の運営や財産管理に不安を感じ、家庭裁判所に成年後見制度の申し立てを行いました。結果、専門職が成年後見人に選任され、田中さんの銀行口座の管理や会社関連の法律手続きを代行しました。

1. 会社法上の対応

認知症等により代表者が「成年被後見人」に該当した場合、その時点で取締役・代表取締役の資格を自動的に失います。このため、会社運営を継続させるには、新たな取締役・代表取締役の選任手続きが必要です。しかし、株式の全て(多く)を代表者が持っていた場合、その議決権行使ができず、株主総会開催にも支障が生じます

2. 家庭裁判所での後見申立て

代表者の家族などが、家庭裁判所に後見開始の審判を申し立て、後見人が選任されます。後見人が株主としての議決権を行使し、必要な会社手続きを代理で進めることが可能です。ただし後見人の選任は、家庭裁判所の判断に基づくため、必ずしも家族が選ばれるとは限りません

3. 会社の継続・清算の意思決定

後見人が選任された場合、会社の今後についても後見人が代理して判断します。事業継続が困難と判断された場合、会社の解散や清算も検討されます。

認知症発症前に家族信託などの仕組みを活用することで、代表者が意思能力を喪失しても、家族や信頼できる第三者が事業や資産管理を継続できる準備ができます。実際、成年後見制度以外にも家族信託等の手段が考えられるため、事前の備えも重要です

  • 申立てから後見人選任までに1〜2ヶ月程度を要する
  • 後見人は財産管理や法律行為の代理ができるが、会社経営のノウハウまでは必ずしも持たない
  • 継続的な家庭裁判所への報告義務や、辞任に制限がある

マイクロ法人において代表者が認知症になると、会社の運営や資産管理が大きく制約されます。成年後見制度は、こうした場合に本人と会社の権利保護のために役立ちますが、会社運営の現場目線では専門職後見人による代理行為には限界もあります。事前に家族信託などの手段も検討し、早めの備えが重要です。会社オーナーやご家族は、将来のリスクを見据え、制度や対応策について積極的に情報収集・準備を進めることをおすすめします