外国人経営者の相続対策:国際相続と在留資格の関係
はじめに
グローバル化が進む現代では、日本で会社を経営する外国人も増えています。それに伴い、「外国人経営者が亡くなった場合の相続」や「国際相続手続き」「相続時の在留資格」といったご相談も多くなっています。今回は、外国人経営者やその家族が直面しやすい相続・在留資格の基本と対策について、最新の法情報や公的資料に基づき、分かりやすく解説いたします。
外国人経営者と国際相続の基本
日本における相続は、民法や「法の適用に関する通則法」によって規定されています。国際的な要素が含まれる場合、どの国の法律が適用されるかがまず問題となります。日本は「相続統一主義」「本国法主義」を採用しており、被相続人(亡くなった方)の国籍が日本であれば日本法、外国籍の場合は原則としてその国の法律が適用されます(通則法36条)。
たとえば、外国人経営者が日本国内に財産を持っており、日本国内で亡くなった場合には、まず本国法の適用を確認しつつ、日本国内の不動産などについては日本法に基づく手続きが必要となります。また、不動産登記に際しては、戸籍や住民票といった日本独自の書類に代えて、「出生証明書」「婚姻証明書」「死亡証明書」等の公的証明書+翻訳が必要になるケースもあります。
相続税の留意点
日本に住む外国人経営者やその家族も、日本の相続税対象となる場合があります。基本的に、「被相続人」も「相続人」も日本に住所がある場合、国内外の財産全てが課税対象です。一方で、相続人または被相続人が一時的な在留資格で日本滞在中(例: 経営管理ビザや技能ビザなど)、かつ過去10年以内の日本居住期間が10年未満の場合は、日本国内財産のみが課税対象となる「制限納税義務者」となります。
具体的には、下記のような場合が想定されます。
- 日本にいる外国人経営者が亡くなり、遺族が同じく外国籍の場合:原則その国の民法等が適用(例外もあり)、日本国内の財産については日本法での登記等手続き、相続税は「制限納税義務者」に該当すれば国内財産に限定。
- 外国籍配偶者・子どもが海外在住の場合:状況によって相続税義務の範囲・対象財産が異なるため、個別の事例に応じた確認が必要です。
なお、国や地域によっては遺産への取り扱いや制度が大きく異なり、ダブルトラック(二重課税)や予期しない相続人認定といった問題も生じ得ます。たとえば米国や英国、中国法では「相続分割主義」(不動産は所在国の法で処理)であり、日本と異なる相続ルールとなります。
在留資格との関係
外国人経営者が亡くなった場合、残されるご家族の在留資格が問題となるケースも多いです。「経営管理」ビザは、会社設立や経営に従事することが資格取得の要件ですが、経営者死亡後は原則として更新できなくなります。そのため、配偶者や子が引き継いで経営を継続する、あるいは「日本人の配偶者等」「定住者」等の他在留資格に切り替えを検討する必要があります。
また、納税義務を怠った場合、将来的に在留資格の更新や再入国が拒否されるリスクがあるため、相続や納税手続きも確実に行う必要があります。
事例
Aさん(中国籍・50代男性)は東京都内で会社を設立し、経営管理ビザで日本に在住。日本国内に不動産、預貯金、会社株式を所有しています。ある日突然Aさんが急逝し、相続人は中国籍の妻(配偶者ビザ)、日本で生まれた子(定住者ビザ)の2人。
この場合、Aさんの主な財産に関しては中国法=本国法が原則適用されますが、日本国内の不動産や会社株式については、日本法に則って相続登記や名義変更、必要書類の準備が必須です。加えて、妻子の在留資格は現行の内容のままでも居住は継続できますが、会社が閉鎖される場合や経営引継ぎが難しい場合は在留資格の新規取得や変更も検討する必要があります。
相続税について、妻子が日本の「制限納税義務者」に該当する場合は日本国内財産のみが課税対象です。
まとめ
外国人経営者の相続は、日本法と本国法の両方を視野に入れた対応が必要です。加えて、遺族の在留資格や、相続税の課税範囲など複雑な法的・実務的問題が伴います。トラブルを回避するため、事前の遺言書作成や専門家への相談が推奨されます。