マイクロ法人の赤字処理と翌期への繰越損失の扱い―赤字決算時の仕訳や損失の繰越方法、個人との相殺不可の注意点
はじめに
マイクロ法人を設立して事業を始めたものの、初年度や数年間は赤字になるケースが少なくありません。特に、開業費や設備投資など初期費用がかさむ場合や、売上が軌道に乗るまで時間がかかる場合は、赤字決算となることが一般的です。しかし、赤字が発生した場合でも、正しい処理を行うことで将来の税負担を軽減できる可能性があります。本記事では、マイクロ法人の赤字処理と翌期への繰越損失の扱い、赤字決算時の仕訳、損失の繰越方法、そして個人との相殺ができない点について、実務上の注意点を交えて詳しく解説します。
マイクロ法人が赤字になった場合の税金の扱い
マイクロ法人が赤字決算となった場合、基本的に以下の税金は発生しません。
- 法人税
- 地方法人税
- 法人事業税
- 特別法人事業税
これらは「利益(課税所得)」がなければ課税されないため、赤字の場合は納税義務がありません12。ただし、法人住民税の均等割については、赤字でも納付義務が生じます。これは、法人の規模や所在地に応じて定額で課されるため、赤字でも必ず支払う必要があります。
また、不動産や一定額以上の設備などを保有している場合には、固定資産税や償却資産税が発生することもあるため注意が必要です。
赤字決算時の仕訳
赤字決算となった場合の会計処理(仕訳)は、通常の決算と同様に行います。例えば、税引前当期純利益がマイナスとなった場合、以下のような仕訳が発生します。
- 税引前当期純利益:-500万円
- 法人税等調整額:150万円
- 税引後当期純利益:-350万円
このように、決算書上で赤字額を計上し、翌期以降に繰り越せる欠損金(繰越欠損金)として処理します。
赤字の繰越損失(繰越欠損金)の扱い
繰越期間と適用条件
マイクロ法人を含む中小企業では、最大10年間、赤字を翌期以降に繰り越して黒字と相殺することができます(繰越欠損金制度)。この制度を利用することで、将来黒字化した際に過去の赤字と相殺し、法人税負担を軽減できます。
繰越欠損金の適用には、青色申告の承認を受けていることが条件です。設立1期目の場合は、設立から3ヶ月以内に青色申告承認申請書を提出する必要があります。
また、繰越控除を受けるには、確定申告書に「欠損金額に関する明細書」を添付し、帳簿書類を7年間保存することが義務付けられています。
具体的な繰越方法
例えば、初年度に300万円の赤字が発生し、翌年度に200万円の黒字が出た場合、翌年度の課税所得は「200万円-300万円=▲100万円」となり、法人税は発生しません。残りの100万円の赤字はさらに翌年度以降に繰り越せます。
赤字の繰戻還付
前期に法人税を納付しており、当期が赤字の場合、一定の要件を満たせば「赤字の繰戻還付」を受けて前期納付分の一部または全額の還付を受けることも可能です。ただし、資金繰りを優先する場合に選択されることが多く、長期的な節税効果は繰越控除と大きく変わりません。
マイクロ法人の赤字と個人との相殺不可の注意点
マイクロ法人の赤字は、個人事業主の所得や他の個人所得と相殺することはできません。法人と個人は税務上まったく別の主体であり、それぞれ独立して課税所得が計算されるためです。
たとえば、個人事業主として黒字が出ていても、マイクロ法人の赤字を個人の所得から差し引くことはできません。逆も同様です。万一、個人の資金で法人の赤字を補填した場合は、「貸付金」や「立替金」として処理されますが、損益通算は認められません。
よくある実務上の注意点
- 赤字でも法人住民税の均等割は必ず発生します。
- 青色申告の承認申請を忘れると、繰越欠損金制度が利用できません。
- 帳簿書類の保存義務(7年間)を怠ると、税務調査時に指摘されるリスクが高まります。
- 売上がない状態が続くと、税務調査のリスクが高まるため、経費や役員報酬の妥当性を証明できるようにしておくことが重要です。
まとめ
マイクロ法人が赤字となった場合でも、適切な処理を行うことで将来の税負担を軽減できる可能性があります。赤字は最大10年間繰り越して黒字と相殺することができ、法人税の節税効果が期待できます。ただし、青色申告の承認申請や帳簿書類の保存など、制度利用のための要件を満たすことが必要です。また、法人と個人は税務上別人格であるため、赤字を個人所得と相殺することはできません。赤字処理や繰越欠損金の活用については、税理士や行政書士など専門家に早めに相談し、正確な処理を心がけましょう。