中小企業が知っておきたい「株式譲渡制限」の定款規定―必要な理由とその効果

中小企業の経営者やこれから会社設立を考えている方にとって、株式の譲渡制限規定は重要な定款事項です。「社内の信頼関係を維持したい」「予期せぬ第三者による経営介入を防ぎたい」といったニーズに応えるべく、多くの中小企業で導入されています。本記事では、株式譲渡制限の制度趣旨や定款例、そして中小企業がこれを必要とする理由について、正確な情報と分かりやすい事例で解説します。

会社法第107条第2項第1号では、株式会社が発行する株式について「譲渡による取得に会社の承認を要する旨」を定款で定めることができるとしています。具体的には、以下のような定款例が一般的です。

第〇条 当会社の発行する株式の譲渡による取得については、取締役会の承認を受けなければならない。ただし、会社の株主に譲渡する場合には、承認したものとみなす。

この規定を定款に設けることで、株式の譲渡が会社のコントロール下に置かれ、経営陣が株主構成を管理しやすくなります。

株式は本来、自由に譲渡できるのが原則です(会社法127条)。しかし、これを何の制限もなく許すと、第三者が突然株主になることがあり、会社の意思決定に予期しない影響を及ぼすリスクがあります。とくに家族経営など人的結びつきの強い中小企業では、信頼できる者を株主として経営に関与させたいというニーズが強くなります。

そこで、定款規定による譲渡制限を設けることで、経営の安定化や外部からの乗っ取り防止など多くのメリットがあります。

1. 経営権の安定化・乗っ取り防止

中小企業の場合、少数株主でも意思決定や会社運営に大きな影響を持つため、信頼できる者だけが株主であることが望ましいです。譲渡制限規定を設けない場合、オーナーの知らない第三者が株式を取得し、経営に口を挟む可能性があります。場合によっては事業継承や経営方針の転換を余儀なくされることもあり、非常に大きなリスクとなります。

2. 相続・事業承継対策としての有効性

経営者が高齢になり、事業承継を迎える際、株式が相続人間で分散してしまうと経営権が不安定になる可能性があります。譲渡制限規定により、会社が承認した人物にのみ株式を譲渡できるため、計画的な事業承継が進めやすくなります。

事例

ある地方の製造業A社の場合、経営者が急逝した際、相続人が複数いたため株式の分散が懸念されました。ただし譲渡制限の定款規定があったため、取締役会の承認を経て事業承継者に株式を集約でき、無事に経営が安定したケースも見受けられます。

3. 役員任期の延長による経営の安定化

譲渡制限規定のある非公開会社では、役員(取締役等)の任期を最長10年まで延長できるという会社法上の特例があります(会社法332条)。経営者や役員の交代頻度を下げることで、長期的な経営ビジョンの実現や、外部からの干渉を防げる利点があります。

株式譲渡制限規定を設ける場合、単に定款作成時に規定を入れるだけでなく、譲渡検討時には会社の承認手続きを経る必要があります。承認手続きについては、会社法136〜138条で詳細に規定されており、株主や取得者から会社に対し「承認請求」を行い、会社側は取締役会等の決議により承認可否を判断します。

また実務上は、「株主間の譲渡は承認不要」とするようなみなし承認条項を定款に追加する場合も多く、柔軟な運用が可能です。

以上のように、株式の譲渡制限規定は中小企業にとって経営権の安定化や事業承継対策、さらには役員任期延長などの大きなメリットがあります。会社法に則り適切な定款規定を設けることで、必要な場合に会社の承認を得て株式を譲渡でき、望まぬ第三者の経営参加を確実に防止できます。今後会社設立・事業承継を検討されている方は、ぜひ株式譲渡制限の定款規定について慎重に設計されることをおすすめします。