役員報酬の決め方と仕訳処理の具体例|最適な役員報酬額の考え方と会計処理を徹底解説

会社設立後、経営者や役員が最初に直面する大きな課題の一つが「役員報酬の決め方」です。役員報酬は、会社の財務や税務、社会保険料、さらには経営者自身の生活設計にも大きく影響します。また、会計処理や仕訳の方法を誤ると、損金不算入や税務リスクが発生するため、正しい知識が不可欠です。本記事では、役員報酬の最適な決め方から具体的な仕訳処理例まで、最新の情報をもとに分かりやすく解説します。

株主総会または定款による決定

会社法では、役員報酬は「定款または株主総会の決議によって定める」とされています。中小企業では、ほとんどの場合、株主総会で役員報酬の金額や総額を決議し、その後取締役会や代表取締役が個々の役員の報酬額を決定します。決定内容は議事録として必ず残し、税務調査等に備えましょう。

役員報酬の改定タイミング

役員報酬の金額は、原則として事業年度開始(期首)から3か月以内に決定・変更し、その後は1年間固定で支払う「定期同額給与」とするのが一般的です。年度途中の変更は原則認められませんが、経営状況の著しい悪化など、やむを得ない事由がある場合のみ例外が認められます。

適正額の考え方

  • 会社の年間利益や固定費、資金繰りを予測し、無理のない範囲で設定します。
  • 法人税・所得税・社会保険料などの税負担のバランスを考慮します。
  • 同業他社との比較や、業績に応じた妥当性も重要です。不相当に高額な役員報酬は損金不算入となるリスクがあります。

利益や売上に応じた目安

  • 年間利益の20%以内、または売上の3~10%程度が一般的な目安とされています。
  • たとえば、会社の年間利益が500万円の場合、役員報酬の目安は50万円~100万円(10~20%)程度となります。

社会保険料・税金のバランス

役員報酬を高く設定すると個人の所得税や社会保険料が増え、会社の利益が減ることで法人税が減少します。逆に役員報酬を抑えると法人税負担が増えます。最も手取りが多くなるバランスをシミュレーションし、会社と個人の合計手取りを最大化することがポイントです。

具体的な設定例

  • 会社の年間利益が1,000万円の場合、役員報酬を100万円~200万円に設定すると、法人・個人の手取り合計が最も多くなる傾向があります。
  • 役員報酬が高すぎる場合は「過大役員給与」として損金不算入となるため、同業他社の水準や会社の業績に照らして妥当性を確認しましょう。

仕訳の基本

役員報酬の仕訳は、従業員給与と基本的には同じですが、雇用保険料の控除がない点が異なります。社会保険料や源泉所得税、住民税は預り金勘定で処理し、支給時に未払費用を取り崩します。

【発生時の仕訳例】

役員報酬500,000円、健康保険料29,075円、厚生年金保険料45,750円、源泉所得税18,420円、住民税35,000円の場合

借方金額貸方金額摘要
役員報酬500,000未払費用371,755役員報酬発生
預り金(健保)29,075健康保険料
預り金(年金)45,750厚生年金保険料
預り金(所得税)18,420源泉所得税
預り金(住民税)35,000住民税

【支払時の仕訳例】

借方金額貸方金額摘要
未払費用371,755現金預金371,755役員報酬支払

社会保険料や税金分は預り金勘定で管理し、納付時にそれぞれ仕訳します。

仕訳処理の注意点

  • 役員報酬は「定期同額給与」等、法人税法上の要件を満たす必要があります。要件を満たさない場合、損金不算入となるため注意しましょう。
  • 役員賞与や臨時の報酬は、原則として損金算入できません。支給する場合は「事前確定届出給与」の手続きを行い、税務署へ届出が必要です。
  • 役員報酬の未払いが続くと、損金算入が認められない場合があるため、必ず定められた支給日に支払うようにしましょう。

A社は、年間利益800万円を見込む新設法人です。代表取締役の役員報酬を月額50万円(年間600万円)に設定し、株主総会で決議しました。社会保険料や税金を差し引いた実際の手取りや、会社・個人の税負担をシミュレーションした結果、資金繰りや税金、社会保険料のバランスが最も良いと判断しました。

このように、会社の利益や将来の投資計画、個人の生活設計を総合的に考慮し、適切な金額を決定することが重要です。

役員報酬の決定は、会社経営の根幹をなす重要な業務です。株主総会での適切な決議、利益や固定費、税負担のバランスを考慮した金額設定、そして正確な仕訳処理が求められます。役員報酬の金額は、年間利益の20%以内や売上の3~10%を目安に、社会保険料や税金も含めて総合的に判断しましょう。また、会計処理や税務上の要件を守ることで、損金算入や税務リスクを回避できます。迷った場合は、税理士や行政書士など専門家に相談することをおすすめします。