法人名義の資産と個人名義資産の違い―相続時の取扱いと注意点
はじめに
相続や事業承継を考える際、「法人名義」と「個人名義」の資産がどのように異なり、これらが相続時にどのような扱いになるのかを正しく理解することは、重要な資産防衛や円滑な事業承継のために不可欠です。本記事では、行政書士として多数質問を受ける「法人名義の資産と個人名義資産の違い」と「それぞれの相続時の取扱い・注意点」について、最新の公的情報をもとに解説します。
法人名義資産と個人名義資産の違い
法人名義資産とは
法人設立後に法人が取得した財産(不動産・現預金・有価証券など)は、登記事項に関わらず、法人自身の所有物です。代表者や役員個人の資産とは法的に区別されます。たとえば、法人名義で不動産を取得すれば、その土地・建物の所有者は法人となり、個人の財産とはなりません。
個人名義資産とは
一方、個人が自身の名前で取得・保有している財産(不動産・現金預金・株式など)は、本人の死後に相続の対象となります。個人事業の場合も、屋号などで取引していても資産や債務はすべて個人のもの、法人とは違い区別がありません。
相続時の取扱い
個人名義資産の場合
- 相続財産となる対象範囲
被相続人個人が保有していた不動産や預金、有価証券などはすべて遺産分割や相続税評価の対象となります。不動産なら登記名義変更や、現預金なら口座凍結と相続手続きが必要です。 - 名義預金のリスク
形式上は他人名義の預金でも、実質的に被相続人の管理運用資金であれば「名義預金」として相続財産に含まれます。生前贈与等の証拠がなければ名義だけ変えても課税対象なので、税務調査でも特に注意されます。 - 債務の継承
個人資産の相続では借入金等の債務も相続人が承継することに注意が必要です。
法人名義資産の場合
- 相続対象となるのは「株式」や「持分」
法人が所有している資産は、代表者や役員が死亡しても法人自体の資産として存続します。相続で対象となるのは法人の「株式」(株式会社)や「持分」(合同会社など)であり、法人の名義の不動産や現預金そのものは被相続人個人の遺産には該当しません。 - 株式の評価
オーナー社長が死亡した場合、所有していた株式(または持分)の価値が相続財産として評価され、相続税の課税対象になります。法人に多額の資産がある場合、株価評価も高くなり、結果的に相続税の負担が大きくなることもあるので注意しましょう。 - 法人から個人へ資産を移す場合の課税
相続人が法人から不動産などの資産を譲渡された場合は、「相続税」ではなく「所得税」などが発生します。このため、不用意に法人資産を個人に移転すると予想外の税負担が発生する点も要注意です。
具体例でみる違い
事例A:不動産が個人名義で相続される場合
父親が長年所有していた賃貸マンションをそのまま家族が引き継ぐ場合、不動産の評価額に基づき相続税が発生します。家族が共有で相続すると管理や処分の際に調整が必要となることも多いです。
事例B:法人所有の不動産の場合
父親が100%株主の法人が賃貸マンションを所有している場合、父親の死亡により相続人が株式を分割相続する形となります。不動産自体は法人の名義のままですが、管理権や利益は株主が握ります。株式の評価額が課税対象となり、法人から個人への不動産移転では所得税も課税され得ます。
注意点と対策
- 資産規模に応じて法人化のメリット・デメリットを精査
相続税の基礎控除以下の場合、法人化のメリットは基本ありません。資産内容や事業の将来計画に基づいて選択しましょう。 - 株式分散・贈与で課税リスク抑制
株式や持分をオーナーが集中保有していると、相続時の評価額が高騰することがあります。生前の計画的な分散や贈与、法人の種類に応じた承継パターンの検討が有効です。 - 相続税と所得税の双方に配慮
法人資産を安易に個人へ移動させると、所得税や法人税の課税が発生するため、税理士を交えた事前対応が不可欠です。 - 名義預金や形式だけの資産移動は厳禁
表面上の名義だけ変更するような対策は、税務署の調査で否認リスクが非常に高いため、実質的な所有者や贈与契約など証拠が求められます。
まとめ
法人名義資産と個人名義資産は、相続の場面において法的・税務的な取扱いが大きく異なります。個人資産は全て相続財産となり、名義預金などにも注意が必要です。一方で、法人資産は相続対象外ですが、株式や持分の評価を通じて相続税が発生します。適切な対策を講じるためには、資産規模や家族構成、事業の将来像に応じて、専門家の助言を得ながら総合的に検討することが大切です。