事業用資産の法人所有と相続対策とは?不動産・設備を活用した賢い相続準備

近年、相続税対策や事業承継を見据えて、事業用資産である不動産や設備を法人所有に切り替えるケースが増えています。法人で資産を所有することによって節税や円滑な相続が期待できる一方で、具体的なメリットや注意点、制度上の留意事項については正確に理解しておく必要があります。この記事では、事業用資産の法人所有による相続対策について、公的な情報をもとに詳しく解説します。

相続時の課税対象

事業用資産を個人が所有している場合、相続が発生するとその資産は相続財産として評価されます。相続税は遺産の評価額に応じて課税されるため、多額の資産を個人で所有していると税負担が重くなる傾向があります

一方、法人が所有している事業用資産(たとえば賃貸不動産や設備)は、法人の財産となるため原則として直接の相続対象にはなりません。相続時には、その法人の株式の評価額が相続財産となって取り扱われます

1.相続税対策

  • 法人所有とすることで資産が法人財産となり、相続時の課税対象を「株式」へと転換できます。株式の評価方法によっては、資産単体で相続するよりも評価額が抑えられることがあります
  • 資産管理会社を活用することで、所得や財産の分散が可能となり、結果的に家族全体の税負担を軽減することも可能です

2.所得分散・長期的な節税効果

  • 法人では役員報酬の形で家族へ分配でき、贈与税や相続税よりも負担の少ない方法で相続人に資金を移す手段として活用されています
  • 法人には退職金の非課税枠など、個人にはない税制優遇措置もあり、計画的に活用すればさらに節税効果が期待できます

3.事業承継の円滑化

  • 事業承継税制(特例)を利用すれば、事業用資産を後継者へ無税に近い形で承継できる特例も用意されています。対象となる資産、要件等は国税庁の公表内容を必ずご確認ください

1.所有株式が相続財産になる

法人自体が資産を所有していても、その法人株式を一人(例:代表者)がすべて保有している場合、その株式の評価額は事業用資産と同等になることが多々あります。そのため、分散所有や後継者への計画的な株式移転も重要です

2.小規模宅地等の特例・土地評価の違い

個人所有の土地で一定要件を満たす場合、「小規模宅地等の特例」が使え、評価額を最大80%減額できる場合もあります。法人所有ではこの特例の適用外となるため、最適な所有形態は自社の状況や目的によって慎重に見極める必要があります

3.設立・維持コスト・経理の煩雑さ

会社設立の費用、毎年の決算、法人住民税や社会保険料等の維持コストが必ず発生します。また、会計や税務処理も個人と比べて複雑となる点に注意が必要です

たとえば、ある地方都市で賃貸マンションを運営している高橋さん(仮名・63歳)は、将来の相続税負担が心配となり、マンションを株式会社へ売却。その際の売却価額は簿価(未償却残高)を用いたため、大きな譲渡益は発生しませんでした。その後、法人の株式を複数の推定相続人へ分散保有させることで、相続時にかかる評価額が抑えられる形となりました。また、この株式の持分を生前贈与する際は登録免許税や不動産取得税もかかりません。さらに、家族を役員に登用し、役員報酬を支払うことで、家族それぞれの所得控除を活用した節税も実現しています

  • 国税庁は個人事業用資産の相続税納税猶予・免除など、事業承継に関わる制度詳細を掲載しています。適用対象や手続き等は必ず最新情報を確認しましょう
  • 法人・個人いずれの所有でも、適切に届け出・申告義務が生じる場合がありますので、専門家へのご相談をおすすめします

事業用資産の法人所有は、相続税の軽減や円滑な事業承継など多くのメリットがありますが、適切な計画と制度理解が不可欠です。個人の状況によっては、必ずしも法人所有が最善とは限らないため、不動産・設備の所有形態選択や株式の分散、各種特例適用の可否など、多角的な視点で検討することが重要です。最新の税制や特例制度を確実に押さえたうえで、行政書士や税理士等の専門家と連携し、資産と家族を守る最良の対策を考えていきましょう。