法人税と個人の株式譲渡所得税の違いと節税ポイント

会社設立や事業承継、M&Aなどの場面で「法人税」と「個人の株式譲渡所得税」の違いを正しく理解しておくことは、経営者や株主にとって非常に重要です。税負担の違いは、資産運用や事業戦略、さらには将来の相続対策にも大きく影響します。本記事では、国税庁などの公的情報をもとに、両者の主な違いと節税のポイントについて詳しく解説します。

法人税は、株式会社や合同会社など法人が得た利益(所得)に対して課される税金です。課税対象は、法人の利益から税務調整を行った後の所得金額であり、申告・納付は事業年度終了から2か月以内に行う必要があります。法人税率は資本金や所得金額により異なりますが、資本金1億円以下の普通法人では、年間所得800万円以下の部分は15.0%、800万円超の部分は23.2%(2025年2月時点)です。

また、法人は株式などの資産を譲渡した場合、その譲渡益も他の所得と合算して法人税の課税対象となります。実効税率は29~42%程度となるケースが多いです。

個人が株式を売却して得た利益(譲渡益)は、「譲渡所得」として課税されます。株式の譲渡所得は、他の所得とは分離して課税される「申告分離課税」となり、税率は所得税15%、住民税5%の合計20%です。さらに、復興特別所得税(所得税額の2.1%)が加算されるため、実質的な税率は20.315%となります(2024年6月現在)。

上場株式と非上場株式のいずれも基本的な税率は同じですが、損益通算や損失の繰越控除など、上場株式特有の特例制度も存在します。

項目法人税個人の株式譲渡所得税
課税対象法人の所得全体(株式譲渡益含む)株式の譲渡による個人の所得
課税方法総合課税(他の損益と通算)申告分離課税(他の所得と分離)
税率実効税率29~42%程度20.315%(所得税15%+住民税5%+復興特別所得税)
損益通算他の損益と通算可能上場株式同士のみ損益通算可能
申告・納付時期事業年度終了後2か月以内翌年の確定申告期間(2/16~3/15)

1. 株式譲渡による節税効果の違い

  • 個人が株式譲渡を選択した場合、事業譲渡(法人税課税)よりも低い税率(約20%)で済むため、M&Aや事業承継の際には株式譲渡が節税手法として有効です。
  • 法人が株式を譲渡する場合、法人税率が高くなるため、個人株主による譲渡と比べて税負担が増加します。

2. 退職金の活用

  • 株式譲渡と同時に役員退職金を支給することで、退職金は法人の損金(経費)として認められ、法人税の課税所得を減らすことができます。
  • 退職金は個人側でも優遇税制が適用されるため、譲渡益の一部を退職金として受け取ることで、全体の税負担を抑えることが可能です。ただし、退職金の支給には一定の要件や限度額があるため、事前の計画が重要です。

3. 譲渡損失の活用

  • 個人の場合、上場株式の譲渡で損失が生じた場合は、同じ年の他の上場株式の配当や譲渡益と損益通算できます。さらに、控除しきれなかった損失は翌年以降3年間繰り越しが可能です。
  • 法人の場合も、株式譲渡損失は他の益金と通算できますが、寄付金認定や時価評価の問題など、特殊なケースでは注意が必要です。

4. 売却タイミングの工夫

  • 個人の場合、株式の保有期間による税率の違いはありませんが、不動産など他の資産では所有期間によって税率が異なるため、売却時期の調整が節税に有効です。
  • 法人の場合も、決算期や損益状況を見て売却タイミングを調整することで、税負担の最適化が可能です。

例えば、Aさんが自社株式を売却して1,000万円の譲渡益を得た場合、個人として売却すれば約203万円(20.315%)の税金がかかります。一方、法人が同じく1,000万円の譲渡益を得た場合、法人税率が30%と仮定すると約300万円の税金となり、個人の方が税負担が軽くなります。

また、Aさんが長年役員を務めた後に退職金500万円を受け取り、残り500万円を株式譲渡益とした場合、退職金部分には優遇税制が適用され、全体の税負担をさらに抑えることも可能です。

法人税と個人の株式譲渡所得税は、課税方法や税率、損益通算の可否など、さまざまな点で違いがあります。特にM&Aや事業承継、資産運用の場面では、どちらの形態で株式を譲渡するかによって税負担が大きく変わります。節税を実現するためには、退職金の活用や損失の繰越控除、売却タイミングの調整など、制度の特徴を活かした戦略的な対応が不可欠です。

制度や税率は今後も変更される可能性があるため、最新の国税庁など公的情報を確認し、専門家に相談しながら最適な方法を選択しましょう。